また一つの死

私が当直で世の中から遮断されている間に、
偉大な作家が亡くなった。

死そのものは淡々として受けとめられるものの、
ああ、もうこれで絶対に新たなる作品は生まれないのだな、
と思うと、矢張り胸に痛みが走る。
また一つの時代が過ぎ去った。

近年のインタヴュー記事では、
自分の死を間近に感じつつも、
まだまだ本にしたい資料の山があると語っていた。

うかうかと冥福なんて祈れないような生き方をした人だった。
死によって、彼は苦しみから解放されたのだろうか。

私には、人生の恩人がいました。
私がまだ甘ちゃんだった頃に、初めて「頑張る」という事を教えてくれた人。
必死になった事のなかった十代半ばの私には、頑張るのは最初とても辛かった。

「もうイヤだ、私には出来ない」

と投げ出そうとする度に諭され、歩き続けさせられた。

歩く事を少し覚えた頃に、特上の誉め言葉をもらった。
「サチ・デニーソヴィチ」
嬉しくて、それを心に刻んで、また歩いた。
それから１０年間、山や谷を歩き続けて、ドイツに辿り着いた。

ドイツから帰国した時、「何か必要なものはありますか」と訊かれた。
「収容所群島が絶版で、どんなに探しても手に入らないんです」と言ったら、
惜し気もなくご自身の蔵書を与えて下さった。
それが最後になった。彼ももう、この世の人ではない。

収穫期。

麦藁はこうして集められます。

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今は手に入るのか。

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