2017年 01月 28日
白い森の往診 |
90歳くらいの人から依頼があって、
10km位離れた小さな村まで、午前の診療の終業後に往診。
風邪をひいて、息が苦しくて・・・と言う。
雪が深いので車は大通りに停めて、マイナス十度近い中てくてく歩く。
ぜろぜろと咳をしていて、
肺を聴診したら、あちゃー・・・。
しかも、心拍数がかなり高くなっている。
こりゃ、しんどいわ。
いつも来る娘さんも風邪で寝込んでいて、
同居の子どもも孫も皆仕事で、
晩まで一人。
抗生物質の処方箋を書いて、
うーん、でもどうしよう・・・
孫が仕事帰りに薬局に寄るというけれど、それでは遅いなあ。
抗癌剤の治療中だし、うろうろしていたら入院になってしまう。
それに心臓の薬は、誰かが様子を見ながらでなくては投与できない。
処方箋を渡して別れを告げたものの、
やっぱり思い直して一旦医院に戻り、
在庫の薬を持って、再度ビューンと往診。
そしてまた、てくてく。
普段ならスタッフに頼むところだけれど、終業後だから、やっぱり自分で。
ところが、呼び鈴を押せども押せども、ドアを開けてくれない(泣)。
お年寄りは、一人で在宅の時にはドアを開けない事にしている人が多いからなあ。
ノックして、「○○さーん!」と呼んでみても、
何せ耳も遠いし、聞こえないみたい。
医院から電話して再訪を告げておけばよかった!と思っても、後の祭り。
とぼとぼ車に戻り、携帯電話を取って来て、
凍える指でダイヤルしたものの、まさかの圏外。
泣きっ面に蜂とは正にこの事。
いくら森の中の小さな村とはいえ、電波もこない訳?!
また、とぼとぼ車に戻り、
抗生物質だけ包み、凍える手と寒さで固まったインクでメモをつけ、
もう歩く気力がなかったので、庭先まで車で乗りつけ、
郵便受けに薬を投函し、仕方ない、帰ろうと思ったら、
やっと車に気付いてドアを開けてくれた。
すぐに抗生物質と心臓の薬を飲ませ、
暫くお喋りしながら様子を見て、
さあもう大丈夫かな、と帰路につきました。
2往復で40km。
はー、凍えたわ。
今週は、黒い森が白い森になっていました。
樹氷がこんなに何日も続くのは珍しい。
翌朝電話をかけたら、随分よくなったとの事で、
脈拍数も正常に戻ったと。
これで入院は免れて、一安心。
そして、樹氷がとけて、
白い森が黒い森に戻った快晴の朝、
彼女は自宅のベッドで、ひっそりと旅立ちました。
とても安らかな顔でした。
予期せぬ死には、いつもいつも後悔ばかりだけれど、
今回ばかりは、
たとえこの結末を知っていたとしても、
同じ事をしただろうと思う。
■欧州日本人医師会の電話健康相談(無料)■
(月・水・木)21時~22時/(火)22時~23時 (ドイツ時間)
+49 9951-9493-399
↓詳細はこちら。
http://www.eu-jp-doctors.org/page2/
by germanmed
| 2017-01-28 04:28
| 仕事・医療
|
Comments(16)
くまさん、がんばれ~!
くまさんを待っている人、
くまさんじゃないと救えない人、
たくさんいるんです!!!
くまさんを待っている人、
くまさんじゃないと救えない人、
たくさんいるんです!!!
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ひかり
at 2017-01-28 07:11
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よかった(といってよいのかわからないけれど)
でも、よかった。
するべきことをしていくだけよね。
お疲れ様でした。
でも、よかった。
するべきことをしていくだけよね。
お疲れ様でした。
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germanmed at 2017-01-28 08:04
★弘さん、こんにちは。
有難うございます~うるうる。
救うなんてまだまだ程遠いですが、お手伝いくらいできたらな、と思います。
有難うございます~うるうる。
救うなんてまだまだ程遠いですが、お手伝いくらいできたらな、と思います。
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germanmed at 2017-01-28 08:16
★ひかりさん、こんにちは。
訃報を聞いた時には不意をつかれた感じで反射的に「しまった!」と思ったのだけれど、よくよく考えてみたら、亡くなる事を知っていたとしても病院には送らなかったなあ。というか、知っていたらそれこそ絶対に送らなかったと思うので、これで正しかったのかな。
死体検案に伺ったら、ベッドの真ん中で上を向いて、全く乱れずに亡くなっていたので、あの薬で苦しみはとれていたんだなあ、と、ほっとしました。
でも、淋しいです。
訃報を聞いた時には不意をつかれた感じで反射的に「しまった!」と思ったのだけれど、よくよく考えてみたら、亡くなる事を知っていたとしても病院には送らなかったなあ。というか、知っていたらそれこそ絶対に送らなかったと思うので、これで正しかったのかな。
死体検案に伺ったら、ベッドの真ん中で上を向いて、全く乱れずに亡くなっていたので、あの薬で苦しみはとれていたんだなあ、と、ほっとしました。
でも、淋しいです。
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m
at 2017-01-28 09:10
x
くまさんが後悔のない往診をとげたのですね。
そうですかぁ、自宅から旅立ったのですね。
こう言う、お医者さん、いいなぁ。
見事な樹氷ですね。ほんと真っ白!
そうですかぁ、自宅から旅立ったのですね。
こう言う、お医者さん、いいなぁ。
見事な樹氷ですね。ほんと真っ白!
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bantelner at 2017-01-28 09:48
深い雪の中を何往復しての往診、お疲れ様です。
おばあさま、くまさん先生の治療のあと、亡くなってしまったなんて!
でも、往診のおかげできっと苦しさがずっと軽減して安らかに逝かれたことでしょう。
子供や孫たちとも同居とのことで、幸せな往生だったのではないでしょうか。
医療現場で従事されている方々のお仕事は、生死の狭間での究極の人助けですね。尊敬します。
おばあさま、くまさん先生の治療のあと、亡くなってしまったなんて!
でも、往診のおかげできっと苦しさがずっと軽減して安らかに逝かれたことでしょう。
子供や孫たちとも同居とのことで、幸せな往生だったのではないでしょうか。
医療現場で従事されている方々のお仕事は、生死の狭間での究極の人助けですね。尊敬します。
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kotori
at 2017-01-29 02:27
x
その方はどくとるくまさんのお気持ちがとても嬉しかったことと思います。あったかくて幸せな気持ちで旅立たれたのだと思いました。
母が歩けなかったとき、私たちもかかりつけ医に往診に来てもらっていました。それだけでどれだけ心強かったことか。更にはとても気持ちの優しい先生で、携帯電話の番号まで教えてくれて、「夜中でもいいですよ。何かあったらいつでも電話してきてください」と言ってくれて、その温かさに感激しました。ドイツでは私のかかりつけ医も同じように携帯電話の番号を教えてくれて、もう本当にその気持ちだけで十分だと思いました。
雪深い日にわざわざ患者さんのために薬を持っていってあげるということは、普通はなかなかできないことではないかなと思います。私もどくとるくまさんのような患者さん思いの家庭医に出会えたら(私の今の家庭医のことはまだよく知らないので、もしかしたら彼も温かいお医者さんかもしれませんが)、毎日安心して過ごせそうです。気持ちって大切ですね。
母が歩けなかったとき、私たちもかかりつけ医に往診に来てもらっていました。それだけでどれだけ心強かったことか。更にはとても気持ちの優しい先生で、携帯電話の番号まで教えてくれて、「夜中でもいいですよ。何かあったらいつでも電話してきてください」と言ってくれて、その温かさに感激しました。ドイツでは私のかかりつけ医も同じように携帯電話の番号を教えてくれて、もう本当にその気持ちだけで十分だと思いました。
雪深い日にわざわざ患者さんのために薬を持っていってあげるということは、普通はなかなかできないことではないかなと思います。私もどくとるくまさんのような患者さん思いの家庭医に出会えたら(私の今の家庭医のことはまだよく知らないので、もしかしたら彼も温かいお医者さんかもしれませんが)、毎日安心して過ごせそうです。気持ちって大切ですね。
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germanmed at 2017-01-29 06:30
★mさん、こんにちは。
私もまさかすぐ亡くなるとは思っていなくて、だから自分の仕事の領域を超えて薬を届けておいてよかったなあ、と、つくづく思いました。
今回の事で、その時々の行動の重さを、改めて思い知らされました。
私もまさかすぐ亡くなるとは思っていなくて、だから自分の仕事の領域を超えて薬を届けておいてよかったなあ、と、つくづく思いました。
今回の事で、その時々の行動の重さを、改めて思い知らされました。
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germanmed at 2017-01-29 06:42
★トミ子さん、こんにちは。
はい、家族だけでなく、うちのスタッフ全員からも、とても愛されていた方でした。笑っているような死に顔でした。
高齢になって、夜、自分のベッドで寝入り、そのまま目が覚めない、というのは、私自身はあやかりたいような逝き方です。家族にしてみたら、お別れできないのは寂しいですけれどね。
はい、家族だけでなく、うちのスタッフ全員からも、とても愛されていた方でした。笑っているような死に顔でした。
高齢になって、夜、自分のベッドで寝入り、そのまま目が覚めない、というのは、私自身はあやかりたいような逝き方です。家族にしてみたら、お別れできないのは寂しいですけれどね。
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germanmed at 2017-01-29 07:02
★kotoriさん、こんにちは。
こういうの、とても難しい領域なんです。
もし営業時間内に私がこんな事をしていたら、医院は潰れます。(家賃、光熱費、スタッフの時給などの経費があり、それに対する収入は医師の働きだけですから。)
携帯電話の番号というのも、kotoriさんみたいに「気持ちだけで十分」とか、本当に緊急時だけかけてくるのならいいのですが、そうでない濫用の人もいますしね。だから、患者思いの医者ほど、家庭が崩壊したり、本人や家族の自殺やアル中・薬中なども多いんです。それで、「自分が溺れていては、溺れている他者を助ける事はできない」と、その辺の線引きの大切さを多くの先輩医師から繰り返し教えられました。
実は今回の再訪も、院長には後で「それは本来あなたの義務じゃなかったよ」と言われましたが、でも義務じゃなくて自由意志で、私に営業時間後の余裕があったからできた事で、そういう余裕を持たせてくれている職場である事に、改めて感謝しました。
(でね、そういう院長も、本当に気に懸かる事があると、休日に片道1時間かけて往診したりしているのを、私は知っています。)
こういうの、とても難しい領域なんです。
もし営業時間内に私がこんな事をしていたら、医院は潰れます。(家賃、光熱費、スタッフの時給などの経費があり、それに対する収入は医師の働きだけですから。)
携帯電話の番号というのも、kotoriさんみたいに「気持ちだけで十分」とか、本当に緊急時だけかけてくるのならいいのですが、そうでない濫用の人もいますしね。だから、患者思いの医者ほど、家庭が崩壊したり、本人や家族の自殺やアル中・薬中なども多いんです。それで、「自分が溺れていては、溺れている他者を助ける事はできない」と、その辺の線引きの大切さを多くの先輩医師から繰り返し教えられました。
実は今回の再訪も、院長には後で「それは本来あなたの義務じゃなかったよ」と言われましたが、でも義務じゃなくて自由意志で、私に営業時間後の余裕があったからできた事で、そういう余裕を持たせてくれている職場である事に、改めて感謝しました。
(でね、そういう院長も、本当に気に懸かる事があると、休日に片道1時間かけて往診したりしているのを、私は知っています。)
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green-field-souko at 2017-01-30 20:59
くまさん おつかれさまでした。せつないですね。
簡単な言葉を使っちゃいけない、重たいものとの対峙だと思いますが、それだけに今はしばしの心の休養を。
病院経営上の課題があって、「自分が溺れていては、溺れている他者を助ける事はできない」と知っていながら、精一杯の治療に努めようとする仕事人の貴いこと。
樹氷が美しいですね。悲しいほど美しい。合掌。
簡単な言葉を使っちゃいけない、重たいものとの対峙だと思いますが、それだけに今はしばしの心の休養を。
病院経営上の課題があって、「自分が溺れていては、溺れている他者を助ける事はできない」と知っていながら、精一杯の治療に努めようとする仕事人の貴いこと。
樹氷が美しいですね。悲しいほど美しい。合掌。
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at 2017-01-31 00:05
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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kotori
at 2017-01-31 01:50
x
たしかにそうですね。
母のそのかかりつけ医は、インターネットの口コミ情報欄に、休診日でも家にいると診てくれる、と書かれていて、どうしてそこまで自分の生活を犠牲にできるのだろうと驚くと同時に、これでは家でゆっくりと休めないのではないかと余計なお世話ながら心配になりました。
でもそこまでしてくれなければ患者思いではないと思っているわけではなく、たとえば私は以前にドイツのかかりつけ医に精神安定剤の処方をお願いしたことがあるのですが、そしたらものすごく心配してくれて、どうして私がそういった薬を飲むべきではないのかということを丁寧に説明してくれて、帰り際にもまた言ってくれました。表情からも私のことをすごく考えてくれているんだと思い、安易な気持ちでそういった薬を飲もうと思ったわけではなかったのですが、でもかかりつけ医を裏切るようなことは絶対にしたくないと思いました。でもそのときだけではなく、初めて診てもらったときからとても患者思いのお医者さんだと思いました。
でもどくとるくまさんのお返事を拝見して、こういった気持ちの問題でも、大勢の人を診るお医者さんが、一人ひとりの患者を家族のように思って接してしまうと、心配事や葛藤などが尽きなくなってしまうでしょうし、ある程度他人事のように思わなければ、たしかに心身が壊れてもおかしくないと思いました。今までそういったことを考えたことがなかっただけに、私はあまりにも自分勝手でお医者さんに対して心を期待しすぎていたなと反省しました。
同時に、冷たいと感じるお医者さんでも、もしかしたら単に線引きをしているだけで、実際は患者のことを思っている心の優しいお医者さんかもしれないんだということが分かり、貴重なお話を聞かせていただけてよかったです^^
母のそのかかりつけ医は、インターネットの口コミ情報欄に、休診日でも家にいると診てくれる、と書かれていて、どうしてそこまで自分の生活を犠牲にできるのだろうと驚くと同時に、これでは家でゆっくりと休めないのではないかと余計なお世話ながら心配になりました。
でもそこまでしてくれなければ患者思いではないと思っているわけではなく、たとえば私は以前にドイツのかかりつけ医に精神安定剤の処方をお願いしたことがあるのですが、そしたらものすごく心配してくれて、どうして私がそういった薬を飲むべきではないのかということを丁寧に説明してくれて、帰り際にもまた言ってくれました。表情からも私のことをすごく考えてくれているんだと思い、安易な気持ちでそういった薬を飲もうと思ったわけではなかったのですが、でもかかりつけ医を裏切るようなことは絶対にしたくないと思いました。でもそのときだけではなく、初めて診てもらったときからとても患者思いのお医者さんだと思いました。
でもどくとるくまさんのお返事を拝見して、こういった気持ちの問題でも、大勢の人を診るお医者さんが、一人ひとりの患者を家族のように思って接してしまうと、心配事や葛藤などが尽きなくなってしまうでしょうし、ある程度他人事のように思わなければ、たしかに心身が壊れてもおかしくないと思いました。今までそういったことを考えたことがなかっただけに、私はあまりにも自分勝手でお医者さんに対して心を期待しすぎていたなと反省しました。
同時に、冷たいと感じるお医者さんでも、もしかしたら単に線引きをしているだけで、実際は患者のことを思っている心の優しいお医者さんかもしれないんだということが分かり、貴重なお話を聞かせていただけてよかったです^^
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by
germanmed at 2017-01-31 05:53
★草子さん、こんにちは。
絶対的な正解というものがあれば簡単なのに、と思います。
「今日は外が真っ白で、本当にきれいですよ」と言ったら、「私はね、夏が好き。緑が好きなの」ときっぱり返されました。夏まで待てないのを知っていたのかも、なんて思います。
雪は悲しい思い出がいっぱいあって、苦手なんだけれどきれいで、余りにもきれいで、いやんなっちゃう。
絶対的な正解というものがあれば簡単なのに、と思います。
「今日は外が真っ白で、本当にきれいですよ」と言ったら、「私はね、夏が好き。緑が好きなの」ときっぱり返されました。夏まで待てないのを知っていたのかも、なんて思います。
雪は悲しい思い出がいっぱいあって、苦手なんだけれどきれいで、余りにもきれいで、いやんなっちゃう。
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by
germanmed at 2017-01-31 05:55
★鍵コメさん、こんにちは。
おおー、痕跡ちゃんと見てるの?!マメだわぁ。
おおー、痕跡ちゃんと見てるの?!マメだわぁ。
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by
germanmed at 2017-01-31 06:06
★kotoriさん、こんにちは。
いえいえ、kotoriさんは濫用するような方じゃないから、自分勝手なんて思う必要は全くありませんよ!
そうねー、本当に難しいです。例えば何かを処方して、保険が「これは必要じゃない」と判断した時、患者さんじゃなくて医者に請求がくるのです。つまり、医者の自腹で処方しろ、という事。そういうのは、どんなに処方してあげたい気持ちがあっても、やっぱり仕事として出来ない部分もあって。それで怒って悪態をつかれたりすると、私はまだまだ、かなりつらいです。
私もkotoriさんのお話しから気付かせて頂く事がよくあるので、とても有難いです!
いえいえ、kotoriさんは濫用するような方じゃないから、自分勝手なんて思う必要は全くありませんよ!
そうねー、本当に難しいです。例えば何かを処方して、保険が「これは必要じゃない」と判断した時、患者さんじゃなくて医者に請求がくるのです。つまり、医者の自腹で処方しろ、という事。そういうのは、どんなに処方してあげたい気持ちがあっても、やっぱり仕事として出来ない部分もあって。それで怒って悪態をつかれたりすると、私はまだまだ、かなりつらいです。
私もkotoriさんのお話しから気付かせて頂く事がよくあるので、とても有難いです!