妊娠糖尿病について(1) |
妊娠糖尿病というものには、色々なタイプがあります。
試しにインターネットでちょっと検索してみましたが、余り情報が多くなかったため、皆さんお困りではないかなと思い、これから何回かにわたってまとめてみます。但し解りやすくするために簡略化した表現をとりますので、細かく言うと違う部分もあります。予め御了承下さい。
果物や野菜に砂糖をふりかけると、浸透圧の作用でどんどん水分が出てきて、くにゃくにゃになります。人間の体でも同様に、血液中の糖分の濃度(血糖値)が上がるという事は、細胞にとっても生命体にとっても危険な状態です。
また、人間は生きているというそれだけで常時エネルギーを必要とするものですから、血糖値が下がり過ぎると危険な事になります。まずはくたーんと力が抜けて動けなくなり、更には意識障害から死まで。
ですから人間の体には本来、複雑な調整機能が備わっていて、そういう事態になる事を防いでいるのです。
例えばごはんを食べて消化吸収されると、血液中にどっと糖分が流れ込み、
もしその糖分を全て消費してしまったら、血液中の糖分は空っぽになってしまいますが、
それでは困る、正常に生きてゆけない訳です。
従って、人間の体はその変動をやわらげるために、
血液中の糖分を細胞に取り込んで貯蓄したり、
貯蓄してある糖分をまた血液中に放出したりして、
血糖値を常に一定の範囲内に保つよう、調整しています。
それによって血糖値は、どんなに空腹の低い時でも60mg/dl(3.3mmol/l)以上、
食後の高い時でも140mg/dl(7.8mmol/l)以下くらいには保たれているのです。
この血糖値の調整には様々なホルモンが関わっているのですが、
中でも非常に大きな役割を担っているのがインスリンです。
インスリンというのは、膵臓にて製造・分泌されるホルモンで、
血液中の糖分を細胞に取り込む、所謂貯蓄型の働きをします。
インスリンは血糖値を下げ、食欲を増加させ、体を太りやすくします。
どうして妊娠中に糖尿病になりやすいかと言えば、
妊娠中にはホルモンバランスの変動などからインスリンの必要量が何倍にも増加するため、
通常の何倍ものインスリンを製造・分泌しなければならないのですが、
それに体が対応できないと、糖尿病になるのです。
その、体が対応できない理由というのは色々で、
例えば高齢で体にそこまでのキャパシティがないとか、
肥満体で既に2型糖尿病になりかけていたのが、一気に症状が出てしまうとか、
遺伝的な弱点があるとか、
まあその辺りが多いと思います。
そして、その理由によって、治療で気を付けなければならない点がそれぞれ違ってきます。
妊娠糖尿病の中でも色々なのですから、ましてや他のタイプの糖尿病患者のアドバイスなどは、全く当てはまらない部分が結構あります。「うちの誰々も糖尿病で・・・」という周囲からのアドバイスには気を付けて下さい。
妊娠糖尿病では、特に食後の血糖値がぽーんと上がる事が多く、
それでも食前の血糖値は正常または低目、という人も少なくありません。
因みに「糖尿病」と言っても、実際に尿検査で糖が出るのは、ほんの一部の人です。
ですから、尿検査で引っ掛からないから大丈夫、という訳ではないのです。
「まさか自分が」と思っていても、一応ブドウ糖負荷試験(ドイツ語ではOGTT※)を受ける事をお薦めします。
※この検査はドイツでは妊娠24-28週目に受ける事になっていますが、これは恐らく、一度の検査でより多くの妊娠糖尿病患者を発見する事も念頭において決められた時期で、もっと早くから発症している人もいます。また、検査した時はよかったけれど、その後に発症するという事もあります。
肥満、高齢(35歳以上)、家族に糖尿病患者がいる、普通より大きな子を産んだ事があるなど、高リスクの方や、既に一度妊娠糖尿病になった事がある方は、通常のOGTTだけでなく、妊娠初期のうちから1-2週間に1度、自分でも血糖値(特に炭水化物たっぷりの食後の値。食事開始の時刻から数えて1時間後くらい。)を測定してみるといいと思います。もしそれが140mg/dl(7.8mmol/l)を超えていたら、掛かり付けの婦人科医に報告しましょう。血糖値測定器のセットはネット購入も可能で、数千円から1万円前後のものが多いようです。
私自身、前回の妊娠では「まさか自分が」という思いがあり、任意・有料である事、検査のために2時間以上拘束される面倒さ、一夜絶食して朝食抜きで検査に行くしんどさなどから、OGTTを受けませんでした。そうしたら超音波検査で羊水過多が見つかり、遅ればせながらOGTTを受けたらクロで、インスリン投与を始めたのが妊娠30週頃。
私は痩せ型で普段から低血糖気味な方なので、同僚の医師達にも異口同音に「まさか!あなたが?!」と驚かれました。そんな事もあるのです。
今回の妊娠では、もう自分の高リスクがわかっていたので「糖尿病が始まるのと同時に見つけたい」と思い、妊娠8週目に「まさかまだ早過ぎるだろうけれど、念のために」と測ってみたら、既にインスリン投与が必要な程の高血糖値(約240mg/dl;13.3mmol/l)になっていて、妊娠が判ったと同時に測定を始めればよかった、と、激しく後悔しました。
尚、OGTT検査前の三日間は、炭水化物の摂取を制限してはいけません。
妊娠糖尿病が何故危険かと言うと、
胎児がもろに影響を受けてしまうからです。
よく耳にするのは、胎児が大きく育ち過ぎる、羊水過多になるという事。
「胎児が大きく育ち過ぎる」というのは、産むのが大変だという以外は大して害がないように聞こえるかも知れませんが、実はこれ一つだけでも大変な事なのです。
胎児が大きくなれば、それだけ多くの酸素・栄養供給が必要になります。
ところが母体の胎盤というのは、既に限界ぎりぎりの働きをしていて、
だから出産予定日を過ぎてからは、急速に老化して衰えていく程なのです。
胎児が大きくなり過ぎると、その限界を更に超える働きが要求されてしまう訳です。
胎児にとって胎盤は唯一絶対の頼みの綱なので、それがきちんと機能しなければ生きてゆけません。
(因みに胎児は大きくなりますが、その分成熟する訳ではありません。)
また、母体が高血糖なら、臍の緒を通じて胎児に届く血液も高血糖です。
そのため胎児自身の膵臓も高血糖に反応してフル活動を始め、異常に発達します。
すると、臍の緒からの糖分供給が突然絶える出産直後に危険な低血糖になったり、
成人してから肥満や糖尿病になる確率も、普通より高くなります。
妊娠糖尿病では、
胎児の突然死、流産、早産、死産の危険性も普通より高くなりますし、
妊娠初期の糖尿病では内蔵などの奇形の発生率が高くなるという報告もあります。
怖がらせるような事を書きましたが、つまり、胎児の正常な成育には、妊娠糖尿病の早期発見と、妊娠中の血糖値を正常値に保つコントロールが欠かせないのです。
運動や健康的な食生活、体重の正常化を心掛けるのは勿論の事ですが、それらですぐ血糖値が正常にならなければ、注射によるインスリン投与は必須です。
血糖値のコントロールは、妊娠糖尿病についての知識や理解が深ければ深いほど、やりやすくなります。
逆に、知らないがために無駄な苦労をした体験談も、色々と耳にして胸を痛めた事があります。
そこで次回から引き続き、妊娠糖尿病の食生活、妊娠初期に起こりがちな低血糖などについて、お話ししていきたいと思います。

こぐまが私のインスリン注射の真似を始めて、大笑いさせられました。
追記:
コメント欄で教えて頂きました。
「日本糖尿病・妊娠学会」
こちらの「糖尿病と妊娠に関するQ&A」に妊娠糖尿病についての基礎知識がまとめられています。

子供はよく見てますね。
2〜3歳は大人の真似をしたい時期ですよね。
だんだんと男の子になってきましたねぇ。



そして2人目の妊娠、おめでとうございます!
今回妊娠糖尿病のテーマで、私も第一子と第三子の時にそうなりました。
幸いそんなに悪くならず、食事療法で乗り切ったのですが、私は糖尿病の検査で、ブドウ糖を飲んだ一時間後は平常値なのに、二時間後に高すぎる値になる、という変形型でした。
出産後はまた治ったのですが、くまさんも体を大事になさってくださいね。
こぐまちゃん、大きくなりましたね~。
はい、本当によく見ています。今迄はピストンを動かして遊んでいただけだったのに、私の注射姿を見て、自分のこれも注射器なんだと気付いたようです。
御親切に有難うございました。リンクされているQ&Aがなかなかしっかり書かれていて、記事内で紹介しようかなと思います。
ご心配有難うございます。
ぼちぼち、ゆっくり書いていきますので、大丈夫です!
有難うございます。
ブドウ糖で2時間後というのは、確かに随分遅い吸収ですね。因みにめぐみさんは、どんな食事療法を指導されましたか。

当時もお医者さんに聞いたのですが、「珍しいわね。でもとにかく妊娠糖尿病ね」だったので、何となくそのままにしていました。
食事療法は、食事回数を一日3回ではなく軽めのを5回くらいに分けてするのと、あとはもちろん、糖の多いものは控えめに、全粒粉などの色の濃いパンにする、でした。
血糖値は朝食前と、朝、昼、晩ご飯の後測って、一定値を越えないようにするというものだったと思います。
そうですね、ブドウ糖というのは普通かなり吸収が速いので、血糖値に反応が出るのも速いのですが、人間の体の個人差というのはとても大きいので、例外があっても全く不思議はありません。
なるほど、この食事療法は理に適っていますね。お答え頂いて有難うございました。

私がネット検索した感じでは、日本のサイトよりもドイツのサイトの方が、しっかりとした「医者発信の患者向き情報」が簡単に見つかる気がしました。まあ、私の検索能力に問題があるのかも知れませんが・・・。
このシリーズ、まだ続きますので、どうぞよろしくお願いします。
解りにくい点などあったら、お気軽に御質問下さいね。あと1ヶ月ちょっと、頑張って乗り切って下さい!
とても軽い内容で恐縮ですが、その最後にくまさんのこの記事へのリンクを貼らせていただきましたので、ご報告させていただきます。今後も血糖値を意識した食生活に努めます(^-^)
リンク有難うございます。軽いなんて事はありませんよー。
このシリーズは書くのが結構大変だったのですが、お役に立てれば本当に嬉しいです。
無事のご出産をお祈りしています!