妊娠糖尿病(5)妊娠初期の低血糖 |
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妊娠初期にはインスリンの分泌量が増えるため、低血糖になりやすくなります。糖尿病と矛盾しているようですが、要は食べれば高くなるし、食べなければ低くなるし、という暴れ馬のような血糖値の状態です。
(つまり、低血糖気味の事がよくあるからといって、糖尿病でないという訳では決してないのです。)
この妊娠初期のインスリン分泌の増加は、糖尿病の有無には関係なく、妊婦さん全般に起こる事なのですが、糖尿病を発症していると好きなように食事を摂れない事もあり、また膵臓の働きの制御ができにくくなるのか、とてもひどい低血糖になる事があります。
私にとって一番つらかったのは、食事制限より何より、この低血糖だったのですが、
専門書を見ても意外に記述が少なく、その対処には随分苦労しました。
解りやすく喩えれば、インスリンの必要量が増えるため、膵臓が「えらいこっちゃ!」とフル回転でわき目もふらずに働いてインスリンを製造・分泌し続けるのですが、それでも食後の必要量には足りず、兎に角必死に分泌し続けて、はっと気付いた時には処理するべき血糖はとっくに消え去っていた・・・というような感じです。
膵臓というのは、本来食事をして血糖値が上がり始めるとそれに反応してインスリンを追加分泌し、その上がった分の血糖の処理が済めば追加分泌を終えるのですが、その反応にはどうしても時間差があります。ですから、膵臓が猛烈に活動している時は、その時間差分だけでも低血糖にまで落ち込んでしまうのだと考えればよいでしょう。
胃の切除手術を受けた人が、食後2-3時間に低血糖になる事があります。これは、手術によって消化吸収のスピードが変わり、膵臓が血糖値に反応してインスリン分泌をする、その時間差が合わなくなってしまう事が原因です。
病的でない軽いものでは、空腹時に炭水化物たっぷりのものを一気に大量に食べると、お腹一杯はち切れそうに食べたのに、暫く経つと突然また空腹感を覚える事があります。これも、突然血液中にどんどん糖分が入ってくる事に膵臓が反応してインスリン分泌するのを、ちょっとやり過ぎてその後低血糖気味になった、という感じです。
こういうのを防ぐためには、なるべく高血糖のピークを抑え、血糖値の変動を緩やかにする事が大切です。
そのためには、前に書いたように吸収のスピードが遅い形で摂取する、よく噛んでゆっくり食べる、という事が必要です。
(因みに、飲酒後に突然猛烈にお腹が空く事があるのも、軽い低血糖です。)
以前にも書きましたが、インスリンというのは食欲も増加させる貯蓄型ホルモンですので、それを垂れ流しにしている状態では、お腹も空きます。その空き方が、かなり糖分も要求する、飢餓感とも言える異常な空き方なのです。普通の状態なら、野菜とか蒟蒻とかでも或る程度お腹は膨れるものですが、インスリンが過剰な場合の空き方は、そんなものでは満たされず、兎に角エネルギー源を求める感じなのです。山で言う「シャリばて」をひどくしたような感じです。
そこへ更に重なるのがつわりで、食べられる物が限られ、一体何なら喉を通るだろうかという状況が加わります。例えばそうめんくらいしか食べられないのに、炭水化物がアウトという辛さ。炭水化物以外のものは調理するのが結構大変なのに、つわりの時にそれをしなければならない辛さ。食べても食べなくても気持ちが悪く、時によっては突然飢餓感が襲ってくる辛さ。
その時によって食べられたり、食べられなかったりで、インスリンの投与量もなかなか決められません。
低血糖というのは正式には50mg/dl(2.8mmol/l)以下の事を言いますが、妊娠糖尿病では「低い時でも65mg/dl(3.6mmol/l)以上に保つ」というのが薦められています。
高血糖が胎児に悪影響を及ぼす事は既に書きましたが、低血糖も矢張り悪影響を与えるという報告があるのです。
高血糖では余程の高さにならないと無症状である事が多いのですが、低血糖には大体症状が現れます。
例えば力がくたーんと抜ける、口の中がピリピリと麻痺したようになる、汗がダラダラ出てくる、ひどい飢餓感に襲われる、意識が朦朧としてくる、などなど。
普通は人間の体には、そこまでの低血糖にならないように調整機能がついているのですが、妊娠糖尿病ではその調整もきかない事があるようです。
一旦ひどい低血糖になってしまうと、腕すら持ち上げられない位になったりもしますし、食べた物が吸収されて血糖値を上げるまでに時差がありますので、食べてもなかなか戻りません。
「低血糖になった時が食べられる時♪」と思うかも知れませんが、実際には味覚が麻痺してしまって甘い物も全く感じなかったりしますし、飢餓感のままに食べると後でまた血糖値が上がり過ぎるので、抑えて食べるのも実に苦しいのです。
私は妊娠初期の一時期毎日、一番ひどい時は毎食間、低血糖になりました。ちょっと体を動かしたり、本を読んで頭を使うだけでも低血糖に拍車が掛かるので、動けるのは食後30分以内だけ、その他の時間は常に次はいつ何を食べればいいのかを考えながら丸太のように横になって過ごした、本当につらい時期でした。
今迄の最低は42mg/dlで、そこまでいくと、何かを食べるのに咀嚼するだけでも更にエネルギーを消耗して血糖値が下がっていくのを感じます。
長時間効果の持続するインスリン投与で低血糖になる場合は、インスリンの投与量を減らす事が必要ですが、
短時間しか効果のないインスリン投与で低血糖になるというのは、食後の血糖値がよい値ならインスリンの投与量は適切な訳で、
追記:
当時はそう思っていたのですが、「短時間」と言っても1時間とかではなく、数時間は効果があるものが多いようですから、今考え直すと、やはりインスリン投与のせいが大きかったのではないかと思います。
定期的に低血糖になる場合は、食事から何時間後に低血糖になるか、食事の時刻と低血糖になった時刻をきちんと記録します。それで大体の見当がついたら、低血糖になると予想される30分くらい前に、糖分を含んだ間食をとるようにすると、随分安定します。
既に低血糖になってしまった場合は、ブドウ糖や果汁など、なるべく吸収の速いものを摂りますが、
低血糖の予防として摂る場合は、それだとピークが短過ぎるので、或る程度ゆるやかに血糖値を上げるものが適しています。
私の場合は、食後2時間頃にりんご二切れ、というのが一番よい間食でした。また、午前中の低血糖が特にひどかったので、朝食は二度に分けてとるようにしました。妊娠中というのは明け方目が覚めてしまう事が多く、目が覚めればお腹が空く、それで早朝に朝食をとると昼食までの間隔が長過ぎる、という問題があり、それらが朝食を二度に分ける事で随分解決しました。
夜中に低血糖になる方は、軽い夜食を入れるといいでしょう。
また、低血糖で料理も満足にできなかったので、外食が増えたのですが、そうするとその後の血糖値が長時間安定する事に気付きました。重い食事はゆっくり消化吸収されるからでしょう。ドイツの普通の重さの食事が、非常に快適な血糖値をもたらしました。お昼にどかんとお肉を食べておくと、晩は軽めでも大丈夫だという事にも気付き、そのようにしたら随分安定しました。
あと、食前の値が低目の場合、通常のようにインスリンを食前に打つと低血糖になってしまうので、
二、三口食べ始めてからインスリン注射をするようにしました。
私の持っている本でも、食前血糖値が80mg/dl(4.4mmol/l)以下の場合はそうするように薦めています。
自分のインスリンの注射から効き目が出るまでの時間を知っておき、
ごはんを食べてから血糖値が上がるまでの時間を考え、注射するタイミングを調整するとよいでしょう。
ただ、その場合はインスリンの効果が食後にずれて長くなりますから、間食を忘れずに。
一旦低血糖が始まると、部屋の中を数歩歩いて食べ物を用意するだけでも、更にかくーんと一気に落ち込み、危険な事もあります。
外出する時に携帯するのは勿論の事、眠る時も、血糖値の測定器とブドウ糖は必ず手の届く所に置いておきましょう。あと、家族など家に居たら、低血糖の時には必ず呼んで、暫く目を離さないようにしてもらいます。
睡眠中の低血糖は、そのまま意識を失っていく事もあり得ます。私も睡眠中に異常を感じ、そのまま朦朧としかけたのですが「何かおかしい!」と飛び起きたら、一気に低血糖の症状が出た事もままあります。一時期昼寝中に低血糖になる事が頻発して怖くなり、家族に「私が昼寝している時は、時々覗いてみて」と頼んでいました。
当然の事ながら、低血糖が頻繁に起こる時期には車の運転はなるべく避け、特に同乗者なしの運転や高速道路を使う移動はしないようにします。
低血糖が回復するまでには少し時間が掛かりますので、必要量のブドウ糖や果汁を摂取したら、あとは余分なエネルギーを消費しないよう、じーっと横になって回復を待ちましょう。
私の場合、妊娠中期に入ったら、このひどい低血糖は徐々におさまりました。矢張り妊娠初期に特に顕著に出る症状のようです。
追記:
消化吸収のスピードが速いものを食べる場合は、インスリン注射と食事開始の間隔を少し長めに取ると、その後の低血糖が防げる事があります。
特に朝食は、油やお肉などが殆ど含まれていないうえ、パンや御飯はすぐに消化吸収されるため、食事の20分くらい前には(これは使用するインスリンの種類によって違いますが、私のはごく普通の速効型のものです)注射するようにすると、私の場合は安定し、昼食前の低血糖が防げました。
また、当時は高血糖が怖くて、厳しくぎりぎりにコントロールしていたのですが、
今思うと、低血糖をもっと気にするべきだったなあと反省。
妊娠糖尿病シリーズ、これにて一応終了です。
普通のスクリーニングで引っ掛かって、まずは血糖値の測定を始め・・・
というのだと、インスリン投与が始まっても、せいぜい2-3箇月の事、というパターンが多く、
よく解らないまま試行錯誤しているうちに過ぎてしまう事が結構あるのではないかと思います。
私も前回はそうだったのですが、今回は30週間以上のお付き合いになるので、本も買って調べたりしました。
この情報が必要になる皆様、どうぞお大事に、無事のご出産をお祈りしています。
その後:「妊娠糖尿病発症から半年のまとめ」
スーパーで冷凍鯖を見つけて、炭火焼きにしてみました。
気を付けて処理したのですが、皮はやっぱり生臭く、
鯖は本当に難しい。
でも、外側をしっかり取り除いて「勿体ない食べ方」をすれば、
中の身はなかなかおいしく、夫もこぐまも大喜びでした。
揚げ茄子の生姜醤油を添えて。
お肉屋さんでSchnitzelを買って来て、カツ丼。
私の分は御飯ではなくグリーンピースの上に載っています。
わぁ〜よくひらめきましたね。凄い!凄い!
鯖の炭火焼も美味しそうに焼けてますね。
くまさんが妊娠糖尿病とは、思えない食卓でびっくりしてます。
楽しんで工夫して食べる事も大切なんだとここで教わりましたね。
私は妊娠中でも糖尿病でもありませんが(隠れか?)、急激な空腹感、疲労感、震えなど同じ症状が出ます。ひどくなる前に何か口に入れるよう、気をつけてはいますが、それが病気だと認識してないので、真剣に向き合ってない状態です。一般的な健康診断だと検査結果にも出ませんよね。これを機会に自分の血糖値を知っておこうと、測定器を注文しました。
クマさんも、特にお子さんと2人の時などの低血糖による疲労感、本当に大変だと思います。役に立つ情報をありがとうございました。
冷凍鯖、パリ時代に良く食べてました。塩鯖にしてフライパン、またはオーブンで焼くのが定番でした。いつも皮まで美味しく食べてましたよ。
最近ひどい低血糖がおさまってきたので、ようやく少しはお料理できるようになってきました。そう仰って頂けると、妊娠糖尿病の宣告を受けて暗澹とした気持ちの方にも、少しは楽しい食卓への希望を持ってもらえるかなあ、と嬉しいです。
無事に生まれて糖尿病とお別れできたら、山盛りの丼飯を食べたいなーと夢のように思っています。
意識障害までいかない、震え程度の低血糖なら、恐らく病的なものではないと思います。私も普段そうですし、私の周囲にも結構います。痩せ型の東洋人に多い気がします。ブドウ糖(日本ならラムネでも)が、かなり即効性がありますよ。
フランスだと冷凍鯖もおいしいのですね!羨ましいです。恐らくこれは冷凍技術自体に問題はなく、荷物の積み下ろしの時に暫く放置されたのか、冷凍ケースの中で長く売れ残っていたのか・・・と思います(この辺の人は食には保守的で、鱒以外には丸ごとの魚は殆ど食べないんです)。
もうすぐ韓国編が始まるのを、私も一緒にドキドキわくわくしています。皆さんの事だから、きっと素敵で楽しい韓国生活になるのでしょうね!
痛みの緩和、よかったですね!
引き続きのご回復をお祈りしています。